山ナース日記 ~Vol.10 ネパール山岳医療研修①~

山ナース

場所:ネパール・ゴサインクンド
日付:2018年11月23日(金)~12月2日(日)

カトマンズに向かう飛行機の窓から、青い空に突き出たヒマラヤ山脈がきれいに見えてきた。世界最高峰の山々に、はしゃいでいたら隣の席のネパール人の男性に「ネパールのどこに行くの?」と聞かれ、「ゴサインクンド」と答えたら一気に笑顔に変わり、「ネパール人にとって大切な場所で、とってもいいところだよ」と教えてくれた。

今回のネパール山岳医療研修は、ネパール三大巡礼地の一つ、ヴィシュヌ神の眠る湖がある聖地ゴサインクンドへトレッキングをしながら行われます。
企画したのは、国際山岳医でパイオニアとして活躍中の大城和恵先生で、参加者は19名(医師・看護師・一般の方も参加)。イッテQ登山部の天国ジジイとして有名な貫田宗男さんがコーディネーター、そしてなんと、2018ピオレドール賞を受賞した中島健郎さんも同行してくれるという、とっても素晴らしい、豪華なメンバーで行われる研修旅行です。

私は、ネパールに20年ぶり2回目の訪問です。前回は登山ではなくバイクツーリングでした。
カトマンズから登山口の村「ドゥンチェ」まで、日本では想像もできないくらいの悪路をバスに揺られて7時間。20年前と悪路は変わらないものの、4輪になると、どうしてこんなにも揺れるのかと驚きました。

そこからトレッキングを開始して、標高を上げると大きな美しい山「ランタン・リルン(標高7222m)」が見えてきました。

ネパール大地震が起きたのは2015年4月25日、死者約9千人。エベレスト登山ベースキャンプでは、大規模な雪崩が発生して日本人も1名亡くなっています。このときランタン・リルンは、一部が山体崩壊して麓のランタン村を壊滅させました。その後、ランタン村には日本から多くの支援の手が入りました。
この3年前の大地震は、シェルパ族の生活にも変化を与えました。山の仕事は危険だからと家族に反対され、都会のもっと良い仕事に就くようになってしまい、多くのシェルパが山を離れてしまったそうです。


今回の山岳医療研修の最大のテーマは、高所障害における予防策と対処法です。トレッキングで日々高度を上げていく中で、自らの酸素濃度などのデータを取り、順応具合を確認しつつ4380mの聖地ゴサインクンドを経由し、最終的に5145mのスルヤピークの頂きへ挑戦しました。


また、高所医療セミナーとして、宿泊ロッジでケーススタディーや、高所では欠かせない登山用酸素ボンベや高所救命処置で使うプレッシャーバックなどを実際に使ってみました。


私はいままで、キリマンジャロ(タンザニア 標高5895m)とマッターホルン(スイス 標高4478m)に登っています。キリマンジャロでは、自分の高所反応を診るために、事前の高所対策を全くしないで行き、標高5000m頃より消化器異常が出始め、吐きながら登頂しました。マッターホルンは、いわばスプリント登山のため、事前に日本で高所トレーニング(富士登山3回)にきちんと取り組み、登頂を果たしました。
しかし今年の夏以降は、個人事務所(小林美智子山岳看護師事務所)の開設などで忙しく、事前の高所対策どころか、登山自体をしていませんでした。そこで、高山病対策として以下の内容をしっかり行いました。

  1. ゆっくりペース、ゆったり気分で登っていく。
  2. 高度を上げたら到着地ですぐに寝ないで、散歩したり、おしゃべりしたりしてマッタリ過ごす。
  3. 体が冷えないように気をつける(汗をかくような保温も避ける)
  4. たくさん水分を飲んで、たくさん排尿する。高所対策としては当たり前のことですが、これらをしっかり、きちんとやることで、私は食欲も落ちず睡眠もしっかりと取れ、4380mのゴサインクンドまで順調に高所順応ができました。

    最後のスルヤピーク(標高5145m)のアタックは、体調などを鑑みて約半数の参加者が挑戦することになりました。私は、ここまで順調に高所順応できており、アタック日の朝も絶好調でした。しかし、高所では何が起こるかわかりません。やはり鬼門である5000mに近づくにつれ、急に体が重くなりペースダウン、岩稜帯のためクラっとしたら大変です。更にゆっくりペースで順応しながら、慎重に、慎重に登り、アタックメンバー最後の登頂でピークハント出来ました。

今回の研修は、参加者が多かったので、色々なパターンの高度障害と高所順応を診ることが出来ました。下山をせざるを得なかった方や、低い標高に一度下山し順応をやり直してピークハント出来た方もいました。「高所登山では、自分をしっかりみつめて、自分の体と対話していくことが大事である」と再認識しました。・・・・・山ナース日記Vol.11へ続く