【山ナース日記】vol. 109「防災の日」に思うこと・・・富士山五合目の孤立を経験して・・・

山ナース

私は災害支援ナースとして以下の災害現場に赴いてきました。
2007年 新潟中越沖地震(新潟県柏崎市)
2011年 東日本大震災(福島県郡山市)
2015年 関東東北豪雨(茨城県常総市)
2016年 熊本地震(熊本県阿蘇郡)

地震や豪雨災害の経験はありましたが、山地災害(山崩れ、土石流、地すべりなど山地に起因する災害)への支援の経験はありませんでした。
山岳地域で起こった災害として記憶に新しいのが2014年の御嶽山噴火です。登山者58人が死亡、日本における戦後最悪の火山災害となりました。

私は2018年に国際山岳看護師の認定を取得しましたが、災害医療と山岳医療は似ている部分があり、その点が山岳医療に興味を持った理由でもあります。
その類似部分とは「自然が相手」ということです。

日本は、険しい山が続く複雑な地形をしている上に、台風等による集中豪雨や、環太平洋地震地帯の中に位置しているため地震や火山活動が活発で、山地災害の危険を常に抱えています。
そして、登山者が山にいるタイミングで、豪雨や地震が発生すると山岳地域での災害となるのです。

今年のお盆は、停滞前線による集中豪雨で全国各地に被害が及びましたが、富士山でもかなりの雨量となりました。
その大雨により流入した土砂により富士スバルラインが通行止めとなり、登山者160人が吉田口五合目に足止めされ、山岳看護師として奔走した模様を報告したいと思います。

8月18日の夜間、バケツをひっくり返したような大雨と、怖いくらいの暴風(五合目で風速20~30m)がかなり長い時間続きました。

その影響で富士スバルラインは、翌朝(3時)から全線通行止めとなりました。
それ以前(4日前と3日前)にも暴風雨が続いていたので、富士山の保水力は目一杯になっていたのではないかと思います。

そして、スバルライン四合目付近で土砂が流入したことにより、緊急車両も通行できなくなってしまいました。
この時期、富士スバルラインはマイカー規制を行っていて、登山者や観光客の交通手段はバスのみとなります。

富士山関係者も朝9時に誘導車を先頭に車で上がろうとしましたが、土砂流入箇所で引き返して1合目で待機せざるを得ない状況となりました。
五合目には総合管理センターに県の職員1人、警察官2名、救護所看護師1名(私)。そして、売店の従業員数名がいるだけでした。

暴風雨の勢いが衰えない中、続々と登山者が五合目に下山してきます。
しかし、五合目に到着しても更に先へは下山できません。
その内、五合目と六合目の間の登山道も一部が崩落してしまいました。

五合目では、登山者を無料休憩所2か所と売店2か所の4か所に分かれて(一か所につき30人から50人くらいに分散)待機してもらいました。
足止めされた登山者は、比較的若い人が多いものの、聴覚障害のある女性の単独登山者もいて、筆談で説明します。
日本語の分からない外国人には、翻訳アプリで対応しました。

暴風雨の中、やっとの思いで下山してきた皆さんはズブ濡れですので、ストーブを運び入れ部屋を暖め、それでも寒い人にはエマージェンシーシート(銀シート)を配布しました。
 

私は、分散した各避難場所を回り、避難者数の把握と具合の悪くなっている人がいないか、声をかけて回りました。
そして現状説明を県の職員の方としたり、激しい雨による雨漏りの対応をしたりと奔走しました。

登山道の一部崩落により、六合目以上の登山者も下山できない状況となりましたが、各山小屋に連絡を取り、山小屋への避難者は子供3名を含めた17名と確認され、そのまま2か所の山小屋に滞在していただくことになりました。
また、下山中の人たちも六合目の安全指導センターの指導員が山小屋への誘導をしてくれました。

お昼頃には暴風は続いていましたが、雨は少しずつ弱まってきました。
すると待ちくたびれた外国人の若者達が、
「僕たちはアドベンチャー(冒険)が好きです。だから崩落現場を見に行きます。」「そのまま、スバルラインを歩いております」などと言い出す始末・・・
警察の方の説得でなんとか避難場所に戻ってくれました。

15時半にはスバルラインの復旧の目途がつき、16:40には救済バスが来るとの連絡があり、その情報を伝えるために各避難場所を駆け回りました。
夕方16時には青空も見えてきて・・・その後、無事160人が救済のためのバス5台に乗車して下山することができました。

バスを見送るときには、嵐の後の青空でした。やっと胸をなでおろすことができました。
しかし、登山道の復旧は夜間になるため、山小屋に残っている登山者はそのまま待機となりました。

富士山では暴風雨の後、登山道外部での落石の報告が多数あり、山への影響の大きさがうかがえました。
今回は幸い人への直接的な被害はありませんでしたが、山地災害の危険は隣り合わせなのだと実感させられました。
「自然は優しい、でも時々怖い」
災害はいつどこで起きるか分かりません。

登山の醍醐味は、危険予知をして危険を回避したり、対応できる装備を持ち合わせ、リスクを感じながらそれを自分(パーティ)の力でコントロールすることにあるのかも知れません。
『危険のない山で景色(花、鳥)を見るのが好きだから、危険と隣り合わせなのが醍醐味なんて、これっぽっちも思っていない』
という方でも、山に入れば危険は今までもすぐ傍にあって気付かなかっただけで、たまたま危険と出会わなくてラッキーだっただけかも知れません。

これからも楽しく充実した登山をするために、登山者は最低限のセルフレスキューの知識と技術は身に付けておくべきだと思います。

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