【山ナース日記】vol.172 山で使用するパルスオキシメーターに注目

山ナース

知り合いの山岳ガイドさんからガイドツアーの際に使用するパルスオキシメーターについてお問い合わせがありました。
今注目のパルスオキシメーターについて、私が山で使用する場合のおすす目ポイントや注意点などを、今回の投稿でお話させていただきたいと思います。

パルスオキシメーターとは、動脈血酸素飽和度と脈拍を測定するための機器のことです。
コロナ以前は、主に医療者のみが使うものでしたが、指に優しく挟むだけという簡単な方法で、血中にどれだけの酸素が溶け込んでいるかがモニターでき、貧血の兆候や肺が正しく機能しているかどうかが分かるため、コロナ感染症への対応で注目され、一般の人々へも普及していきました。
以前から高所登山では活用されていますが、山岳看護師である私の「頼れる相棒」でもあります。

しかし、コロナ対応で一般の人々への需要も増えたため、安価で質の悪い製品も出回るようにもなりました。
そういった商品は、数値が表示されても安定せずにコロコロ変わります。
いわゆるオモチャと言っても過言ではないでしょう。
きちんと脈の波動がとれているのが目で確認できるものでないと、その数値に信頼性はありません。
下の使用中のイメージでパルスオキシメーター画面左下のデジタルのバー(イメージでは3本)が、脈を感知して本数が変わります。
(イメージ図:ユビックス)

では、実際の山岳診療所の現場で使用されている商品をご紹介します。

最初に下の写真です、「富士山吉田口五合目救護所」で使用している機種です。
オムロン社製のモノで、単4電池2本使用します。
現在は、後継機種が出ておりBluetoothを使用してスマートフォンにデータを送ることもできるようです。

続いての写真は、「赤岳鉱泉山岳診療所」で使用している機種です。
コニカミノルタ社製のモノで、単4電池1本使用します。
上の写真と比べて何が違うのかというと、下は手タレ(手指が美しい、手だけ出演するタレント。「手タレント」の略)
上は私・・・さすが手タレです、手の違いに愕然としますが、機械の話ですので見逃してください。
(写真:コニカミノルタ)

上の2つ、山岳診療所で使用しているパルスオキシメーターは信頼性が高く(メーカーも超有名ですね)間違いがない製品といえると思います。
それ以外にも医療機器専門メーカーのモノもありますので、調べてみてください。
一般の人々が知らないメーカーでも日本製のしっかりしたモノがありますからね。
価格は、パルスオキシメーターで検索すると5,000円程度~たくさんの商品が出てきます。
価格の高低に関係なく共通して言えることは、どれも電子機器ですので低温での使用に関しては注意が必要になります。
低温下では電池の消耗が激しくなりますので、いざ使おうとしたときに電池切れも考えられますので、予備の電池は必ずご準備ください。

これは私の個人的な意見ではありますが、登山ガイドなどでプロとして使用するなら上記のような1万円以上する製品が安心かと思います。
え?山に持っていくのにそんな高価なものと思う方もいるかと思います。
これは、登山道具と同じで良いものを始めに買ってしまえば、後で製品の使い勝手や性能不足で買い直すことにもならず、無駄な時間と支出を抑えられると思います。

実際に高価な製品には、それなりの理由があるので高山病になりやすい方や、パルスオキシメーターに興味のある方で購入を考えている方は、以下のポイントを調べてみてください。
①末梢の潅流状態を感知(高所登山などで指先(末梢)の血流が悪い場合を感知する)
②耐久性・堅牢な作り(指をはさんで測定するためヒンジがあるため繰り返し測定すると劣化する、登山でパッキングすると負荷がかかる)
③省エネ(登山中に予備の電池をどれくらい持って行く必要があるか)
④対象年齢(老若男女、指の太さが変わっても大丈夫か)
⑤測定精度(ほとんどの製品は酸素飽和度の精度±2%ですが、中には±3%と大きいものもあります)
⑥重量(登山装備なら1gでも軽いのが間違いなく良いです)

私が思うパルスオキシメーター購入時のポイントを書きました。

では、「山ナースガイド」として私が山に持って行く機種をご紹介します。
下の写真になります。ユビックス製のモノを使っています。
価格は3万円ちょっとくらいしますが、私は仕事で使用し、しかも山の上に持って行くので、コンパクトで軽量化された製品を選んでいます。

学校登山等に同行することがありますので、大人も子供も測れるものです。
電源は、なかなか山で手に入りづらいボタン電池ですので、必ず予備電池を携帯しています。
TV番組の富士登山撮影隊(総勢50人)や障害のある子供たちとの富士登山に同行した際は、頻繁に使用することが予想されるので首からぶら下げて、なおかつ低温による電池の消耗を防ぐため胸元に入れていました。

最後に高所登山で使用するときの注意点を書きますと、パルスオキシメーターの数値は、あくまでも目安ということです。
数値が低くても高山病の症状の出ない方もいますし、数値が正常なのに症状がヒドくなる方もいます。
ですので、山岳医療ではパルスオキシメーターの数値だけで高山病と断定することはありません。
急性高山病や重症度の判定には、LLS(レイクルイーズスコア)を使って、きちんと考察をします。

また、夏の高所登山では、高山病と脱水と熱中症とコロナ感染症の区別をつけるのはなかなか難しいです。
今夏も既にそのような状況で山小屋が閉鎖されたり、救助隊が慎重に対応したりとコロナ前とは違う問題が起こっています。
ただ、パルスオキシメーターがあれば、数値を見て下山を決める指標のひとつとなると思いますので、うまく活用していただきたいと思います。

以上、国際山岳看護師で登山ガイドもしている私からの、山で使うパルスオキシメーターの選び方のポイントや注意点などをお話させていただきました。