山ナース日記 ~Vol.3 雲の上の診療所~

山ナース

山域:北アルプス 槍ヶ岳
日程:2018年8月初旬

今年も「山の日」の前後に、慈恵医大槍ヶ岳診療所で山岳看護師活動をさせていただいたので、報告します。
はじめに山岳診療所について紹介しますと、山岳診療所は、多くのボランティアの医師や看護師、学生達によって成り立っており、ほとんどが夏季限定で、槍ヶ岳診療所の場合(2018年)は、7/23(土)から8/22(月)まで開所しています。

「山ナース日記」を読んでいる方のほとんどが、登山者だと思うので、皆さん山岳診療所の役割は登山者の為と考えるのではないでしょうか。もちろんその通りです。そして、隣接している山小屋の方々の健康管理も山岳診療所の大事な役割です。山小屋のスタッフの方々は、強靭な体力の持ち主ばかりですが、山小屋での滞在が長期間になり、ほとんど休みはありません。仕事は、宿泊設備の準備、食事の提供、登山道の整備、捜索救助活動…やる事はいっぱいで、槍ヶ岳山荘の場合、宿泊人数は400人(定員)なので、それはそれは大変です。槍ヶ岳診療所には、槍ヶ岳山荘のスタッフさんだけでなく、周囲の山小屋の方でも体調不良や怪我などがあれば来所されています。
また、診療所で診察した高山病の方の処置として標高を下げる必要がある場合に、急遽にもかかわらず殺生小屋では快く受け入れてくれました。槍ヶ岳診療所は、昭和25年から毎年開所しており、山小屋と長年に渡り山の安全を担ってきたからこその信頼関係だと感じました。

診療所にいる期間中に、ヘリコプターでの荷揚げがありました。荷揚げされた荷物の中身を見てみると、ビールの量の多さに驚かされました。
憧れだった槍ヶ岳に登頂・小屋入りし「カンパ~イ!」「うま~い!」・・・その後、バタンキューでグ〜グ〜💤
しかし、起きたら顔面蒼白。気持ち悪く。すっかり高山病になっているというパターンが非常に多いです。脱水状態でのビール(=アルコール)は危険なんです。
なぜか?まず、アルコールは呼吸を抑制する(回数を減らす)作用があります。また、利尿作用があるため水分補給になるどころか、脱水を誘発してしまいます。高所ではアルコールの回り具合が下界とは違い、一般的には回りやすくなります。さらに、環境や登山の疲れもあって、すぐに寝てしまいがちですが、寝る事で呼吸の回数が減るとともに、浅くなってしまいます。この結果、皆さんご存知の高山病になってしまいます。

また、夏休み期間中ですので、お子さんを連れて登山されている方を多く見かけました。槍ヶ岳まで来る子供たちは、それなりの登山経験があるのですが、行程が長いのでかなり疲れています。そして、子供は大人よりも高山病になりやすく、到着して疲れて寝落ちしてしまった子供が、何人も高山病で診療所にきていました。お子さんも疲れているでしょうが、到着してすぐに寝ないように大人が注意して看ていてあげてください。

大人も子供も、高所に着いてすぐに、横にならない(寝ない)、走らない、小槍の上でアルペン踊りを踊らない(笑)。たとえ疲れていても、身体が冷えないようにし、脱水を回復させるために水分をしっかり摂り、皆で座ってお話をするとか、写真を撮るとかして消灯までゆったりと過ごしましょう。
お楽しみのビールは、ほどほどにしてくださいネ。
小林美智子